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大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)343号 決定 1960年1月12日

抗告人 金昌敦

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙に記載する通りであるが、

記録中の第三番抵当権設定金銭借用契約書(六丁)、登記簿謄本(一〇丁ないし三四丁)及び通知書(三九丁)郵便配達証明書(四一丁)に徴すれば本件競売申立の基本たる債権の存在及び抵当権の設定の事実を認めうべく、これを否定すべき反証はない。本件競売の申立は既に昭和三二年一二月一七日競売開始決定のなされた大阪地方裁判所昭和三二年(ケ)第五八五号不動産競売事件(別件という)の目的不動産につきなされた関係上、本件競売申立記録は昭和三三年一〇月二三日右前件記録に添付されその旨債務者兼物件所有者たる抗告人他利益関係人に通知し、配当要求の効力を生じたところ、其後昭和三四年九月一四日右別件につき競売手続停止決定がなされた為に本件競売につき開始決定がなされた効力を生じた結果、本件につき競売が続行されて冒頭記載の競落許可決定がなされるにいたつたことも別件及び本件記録上明かである。しかして右のような場合に既に先になされた別件の競売開始決定が正本が債務者たる抗告人に送達されていることが別件記録中の送達報告書(五七丁)により明かであり、本件競売申立の記録の添附されたことも通知を受けていること前叙の通りである以上、同一不動産の競売を続行するに過ぎない本件につき、法律上開始決定を受けた効力が生じたからといつて重ねてその通知をする必要はないと解されるから、本件につきそれなくして競落期日を指定しても違法ではない。

抗告人は本件競売期日の公告に賃借権についての記載を欠くと主張し、本件競売期日の公告(別件記録一二八丁以下)の賃貸借の記載は同記録中の賃貸借調書(七一丁以下)に照し必ずしも正確とはいえないが、元来債務者兼物件所有者である抗告人は右公告に賃貸借の記載が遺脱されたとしても何の不利益も受けないから、そのような事実を主張する利益がない。

その他本件及び別件記録に徴するのに原決定を取消すべきかしはない。

よつて抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を準用し、主文の通り決定する。

(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)

申立の趣旨

一、大阪地方裁判所昭和三三年(ケ)第六一三号不動産競売事件につき

昭和三四年一一月二日に言渡された競落許可決定は之を取消す。との御裁判を求めます。

申立の理由

一、申立人は相手方に対し手形割引による負担する基本債権額金四五一、九〇七円のため不動産関係書類を信託保管しておいたところ、相手方は之を利用して申立人の承諾なく不知の間に虚偽の債権額金百万円余りあるが如く、抵当権設定をなし競売申立たが原審裁判所は競売手続開始決定書又は競売申立書の通知書を申立人に対し送達することなく、単に昭和三四年一一月二日に競落許可決定をせしめられたるは、競売法第三〇条及び民事訴訟法第六四四条三項の手続を履践せずしてなされたる競売手続は無効であること明かなれば、本件競落は之を許すべきにあらずとなすものなりとす。

(イ)、昭和三三年(ケ)第六一三号不動産競売事件の記録を以て該競売申立通知書の送達あるか否かを審理せず単に競落期のみの指定は無効である。

二、相手方は本件競売申立前に別個の担保債権ありとして、申立により「第一」大阪地方裁判所昭和三二年(ケ)第五八五号不動産競売事件として手続開始決定があつたので、申立人は之の債権に対し異議申立をなしたところ、執行裁判所は昭和三四年九月一日同裁判所第一四民事部に於て、昭和三四年保(モ)第一八一九号不動産競売手続は該異議について裁判あるまで、一時停止決定をなされたのである。然るところ相手方は「第二」の競売申立をなしたるにつき、第一記録に添附し開始したるものと看做し、大阪地方裁判所昭和三三年(ケ)第六一三号不動産競売事件として取扱うものと雖も、第二の競売申立通知の送達なくして競売遂行は違法である。

三、目的物件につき相手方の抵当権設定前から民法第六〇二条違反でない、又は同法第六〇五条の賃貸借あり抵当権者に対抗するを得べき競売法第二九条により競売期日公告に掲載を要する賃貸借の遺脱は違法であり、尤も民事訴訟法第六五八条の三項の理由に欠いだものである遺脱した事項は次のとおりである。

(1)  目的物件の内

大阪市生野区中川町二丁目四六番地宅地一二七坪二合八勺、((イ)の物件)については月賃料金五、〇〇〇円毎月末日に払う保証金五〇万円を差入れてあり期限は昭和三〇年八月一日より向う一〇ケ年と定めの賃貸借がある。

(2)  大阪市生野区中川町二丁目四五番地の九、宅地七八坪九合三勺((ロ)の物件)並に同地上家屋番号第二九七番及び第二九八番建物((ニ)(ホ)の物件)については月賃料金七、五〇〇円毎月末日払う保証金八〇万円を差入れた賃貸借がある。

(3)  大阪市生野区中川町二丁目四六番地の五、宅地一四坪〇七勺((ハ)の物件)は昭和三一年三月七日に訴外呉亮元に売買して、同人は同地上に家屋を新築してあるものを相手方が抵当権設定し競売になつたものであるが、競売期日公告に掲載せざるは違法である。

上述申立の趣旨のとおり御裁判を求めるため、本抗告に及んだ次第であります。

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